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アクタス1993年9月号 ▼探偵の人間万華鏡▼⑨

暴走する女子高生の性

電子手帳手掛かりに調査

「三日前から娘が家出して、行方が分からないんです。学校には、”風邪をひいた”と説明してありますので、何とか捜し出して下さい」
九月初め、金沢市内の四十代の夫婦が樵惇しきった表情で事務所に相談に訪れた。家出したのは高校二年になる二女の寺崎裕子さん=仮名=である。

両親の話によると、裕子さんが家出する一週間ぐらい前から真夜中に電話が頻繁にかかるようになった。
家出前日には裕子さんは「頭痛がする」と言って学校を休み、一日中自分の部屋に閉じこもったまま。そして当日の夜、母親がタ食を知らせに行った時には部屋はもぬけの空で、窓が開けっ放しの状態。机の上に「一週間したら帰るから心配しないで」との走り書きがあった。
家出した時の所持金は五千円ぐらいで、お気に入りのブラウスが二、三枚なくなっていた。
その日の夜から、あれほど頻繁にかかってきていた電話がピタリとやんだ。母親は机の引き出しから裕子さんの電子手帳を探し当て、事務所に相談に訪れた際に持って来た。調査員が調べたところ、電子手帳には 二十数人の男女の名前と住所、電話番号が記録されていた。手帳を手掛かりに調査を開始した。

男性宅で下着姿の娘発見

裕子さんの親類を装って、友人宅とその周辺の聞き込み調査を進めた。友人たちには強い仲間意識があるようで、裕子さんの消息を知る手掛かりになるようなことは決して話そうとはしなかった。
調査を進めて行くうち、ようやく一人の友人が教えてくれた。
「裕子は家出したんじゃないわ。彼氏のアパートで寝泊まりしているんだから心配ないわよ。でも、彼氏の家がどこにあるのかは口が裂けても言えない」

早速、手帳に載っている男友だちのアパートや自宅を軒並み当たった。金沢市南部のアパートの周辺で聞き込みを進めていた際、有力な情報をつかんだ。アパート付近に住む人に裕子さんの写真を見せたところ、「ああ、この女の子なら205号室にいるはずよ。何度か部屋から出てくるのを見たことがあるから」との返事が返ってきたのだ。

近くの公衆電話から両親に連絡し、一緒に部屋を訪ねることにした。ドアチャイムを鳴らすと、若い男性がパジャマ姿で出て来た。母親が玄関で裕子さんの赤のスニーカーを見つけ、部屋に上がりこんだところ、下着姿の裕子さんが風呂から上がって髪を乾かしていたのである。両親は言葉を失い、その場でしゃがみこんでしまった。

親からの調査依頼を受け、女子高生の行動を調査していくと、最近の少女たちの奔放な性行動が浮かび上がってくる。家出した少女たちの行方を調べると、交際している男性のアパートに身を寄せていたり、行きずりの男性と一夜を共にして一緒に暮らし始めるケースにもぶつかる。帰宅時間の遅い少女の行動を調べてみても、男性の遊び友だちの姿がチラつくのである。

毎週土曜日に無断で外泊

高校二年の三枝敦子さん=仮名=の夜の行動を調べてみると、やはり男性の影が浮かんできた。
両親は共稼ぎをしており、幼いころから祖母が敦子さんの世話をしてきた。「敦子の夜の行動を調べて欲しい」と調査依頼に訪れた母親の話によると、敦子さんには高校一年の時、交際していた男子生徒がいた。
その男子生徒は一年の三月に退学し、父親の働く土木工事現場で一緒に働き始めた。三月末に男子生徒のお別れ会があり、その日の夜は、敦子さんは十一時過ぎに帰宅した。

それ以来、敦子さんの帰宅時間が午後十時を回る日が多くなった。母親が問い詰めると、敦子さんは「友だちの家で話しこんでいるうちに、ついつい遅くなってしまった」と言い訳し、次第に親を避け始めた。最近では土曜日に外泊するようになり、母親が注意すると反抗的な態度で自室に閉じこもる。父親はロ数が少ない方で、ほとんど敦子さんを叱ったことがない。若いころから仕事で帰宅が遅く、家族一緒に食事をすることもまれ。「子供のしつけは 母親の責任」がロ癖だった。

ある日のタ方、敦子さんの自宅付近で監視に着く。午後六時過ぎ、敦子さんが玄関から出て来た。表通りの離れた所に黒の乗用車が待っていた。敦子さんが駆け寄り、助手席に滑り込むと、すぐに車は発進した。尾行を続けると、車は内灘町のある民家の車庫に入って行き、若い男と敦子さんはプレハブ造りの離れに姿を消した。敦子さんはこの日午後十時過ぎ、再び男の車で自宅近くまで送ってもらい、帰宅した。翌日も同じ行動だったが、土曜日には男の家で泊まったことが確認された。若い男は高校一年で中退した、くだんのクラスメートだった。父親と二人暮らしで、父親は息子が離れに敦子さんを呼び寄せていることにまったく気づいていなかった。

坂口洋子さん=仮名=は高校三年で、両親、祖父母と暮らており、県外の大学に進学した兄がいる。父親は建築会社を経営し、母親は事務を手伝っている。父母が仕事に忙しいため、祖母が洋子さんの面倒をみてきた。その祖母が洋子さんの相談に訪れた。
祖母の話によると、洋子さんはその日の出来事は何でも話してくれる優しい子だという。下校途中、ゲームセンターに出入りしていたことも聞いていた。しかし、二、三カ月前から帰宅が午後九時を回るようになり、心配になったという。そんな折、同じ高校に通う幼なじみの友だちから電話があった。
「洋子ちゃんとはこれ以上、友だち付き合いはしないわ。以前の洋子ちゃんとは別人みたいになっちゃったもの」
だが、祖母に接する時の洋子さんの熊度にはまったく変わりがない。祖母には、友だちが付き合いをやめるというような心当たりもなく孫に意地悪をしているのではないかとさえ思った。自分は孫を信頼しているが、念のため行動を調べて欲しいというのが祖母の依頼だった。

大胆な服に着替えて変身

早速、調査を開始した。高校の校門を出て来た洋子さんは、近くの喫茶店の駐車場で待っていた若い男の車に乗り込んだ。車は郊外のファミリーレストランの駐車場に滑り込み、二人が店内に入る。
一時間ほどしてレストランから出てきた洋子さんは別人のように見えた。レストランのトイレで着替えたのだ。体のラインを強調する真紅のボディコン姿に、パールカラーのロ紅、アイシャドーも引いている。制服姿の洋子さんからは想像もつかないほど、大人びた女性に変身していた。男は二十一、二歳ぐらい。二人は腕を組んでゲームセンターに入り、約二時間ゲームに興じていた。 その後、二人は車で金沢、松任、野々市とドライプし、一軒のラブホテルに入って行った。その夜は男の車で自宅付近まで送ってもらい、午後十一時過ぎに洋子さんは帰宅した。むろん、その時には制服に着替え、化粧も落としていた。
その後の調査で、男は配管工で、しばしば職場を無断欠勤していることが分かった。

数日後、洋子さんの家では家族会議を開き、午前一時まで母親と祖母がひざを突き合わせて洋子さんと話し合った。洋子さんは「私は彼が好きなの」と泣きじゃくるばかりだった。翌朝、洋子さんの部屋は明かりがついたままになっており、机の上に「しばらく考えてきます」との置き手紙が残されていた。部屋からは着替え用の洋服が数着なくなっていた。相手の男性もアパートから姿を消し、職場にも顔を出していなかった。

女子高生の性の乱れは大人たちの予想をはるかに超えている、というのが調査に携わっての実感である。性のモラルは今、世代に関係なく崩壊しつつあるようだ。
(最近の調査結果を素材にした創作です)

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