書籍紹介

第3章 移り行く女性像 ④ 文明開化 044P

ほど悲しくも美しい。

美人の女芸人ならば、当然のようにしてお抱えの旦那の声がかかるが、それを振り切って、愛した男に一途に尽くし抜いた女は、やがて、金のために人を殺めてしまった。

その罪に、厳しく死罪を求刑したのが、無情にも金沢裁判所の新任検事となった、恋した男、その人とは……。

その夜、法衣をぬいだ欣弥もまた、白糸の後を追って……。

時世は移り変わって、この舞台の町並みには高層マンションなど近代建築が立ち並び、当時を偲(しの)ぶものは消え去った。

同じように、白糸のように日陰で耐え忍び、好きな人のためには死をもって解決しようとする自己犠牲の心情は、

♪恨まない、悔やまない、この世のことは
好いたお方に、裁かれて命を、命を絶たれても……

と、わずかに演歌の世界でしか見ることができなくなったようだが、それでも、聞くものをして、こうした心情に心を打たれ、感涙を惜しまないのである。

今、この川の通り過ぎてしまいそうな川べりの隅で、派手なライトに当たることもなく、裃姿の白糸のブロンズ像が立っているが、何か寂しげに、「結ばれない恋こそが、恋なのだ」と語りかけているような気がするのである。

続く・・・

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