書籍紹介

第3章 移り行く女性像 ④ 文明開化 042P

金沢市の中心部を挟んで二つの清流がある。

南側に流れるのが男川と呼ばれている犀川、その一方の北にあるのが女川の浅野川である。

昔から、犀川界隈は武士と上流商人らを核にして栄え、なんとなく気位が高く感じられるが、これに比べて浅野川の方は、庶民を核にして、東京でいえば「下町風」であったという。

例えば、沿道には大衆向きのちっちゃな店舗が軒を並べ、その裏小路からフーテンの寅さんみたいのが、ステテコスタイルでやってきて「おいタコ、元気でやっているかい」と気軽に話しかけることのできる、そんな雰囲気の一帯であったのではなかろうか。

私も、犀川を見て一瞬浮かぶのが勇壮な加賀鳶(とび)と格式ばったお座敷であり、浅野川からは、女の楽しみな友禅流しとくつろいだお茶の間の光景である。

明治の文豪泉鏡花は、この浅野川のほとりに生まれた。

鏡花は、幼きころから、嬉しいにつけ、悲しいにつけ、この川辺に佇(たたず)み、その美しさを追い求めるごとく、自らの作品の中にその情景を描き続け、ヒロインに託し続けたという。

封建制度が色濃く残り、恋愛の自由などない時代に、世俗に背を向けるようにして、自分の夢や希望を描

続く・・・

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