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アクタス7月号 女探偵は見た 人生こころ模様 第7回

増える近隣トラブル

アクタス 2014.7月号

アクタス 2014.7月号

「友人は選べても隣人は選べない」という言葉があるように、近隣住民との関係には、特に気を使う必要があるようです。
報道によると、現在、2人に1人が近隣トラブルを経験し、そのうち半数が1年以上トラブルに悩まされていることが明らかになったそうです。桂木紀子探偵事務所にも、近隣トラブルに悩んで調査依頼をされる方が、特に近年、増加傾向にあります。
そもそも近隣トラブルは、何が原因で起きるのでしょうか。
調査の過程でよく耳にするのは「最初から気に食わなかった」という言葉です。
「家を建てて引っ越してきたお隣さんが、まったくあいさつにも来ない」
こうしたケースでは、人間関係の基本であるあいさつがなかったことから、ぎくしゃくして、些細なことからトラブルに発展していく様が垣間見えます。
もとより、これが直接的原因となるわけではないのですが、その後の日々の生活のなかで起きるさまざまな問題の火だねとなっていることが多いのです。

井戸端会議は要注意

意図的な「嫌いやがらせ」もあります。その方法は、ゴミの不法投棄、無視、器物損壊、住居侵入、誹謗中傷と、挙げればきりがありません。
以前、マスコミで取り上げられ話題になった「奈良県の騒音おばさん」のように音楽を大音量でわざと流したり、生ごみや動物の死体などを投げ込んだりするケースもあるようです。
そして、注意しなければならないのは、近所の井戸端会議などで「隣の奥さん、不倫してるんですって。不潔よね」という会話がされていたら、まさにプライバシーの侵害に当たるということです。
不倫は社会通念上も法的にも許されることではないのですが、このような話を広められると、当事者の保護法益が侵害されることになります。つまり名誉棄損になりかねないのです。
近隣トラブルといえば、このような井戸端会議を思い浮かぶ人もいるのではないでしょうか。

盗聴行為に発展も

 当社が調査した事案では、近隣トラブルから隣人の私生活を盗聴するまで及んだケースもありました。
依頼者は、家の中で話している内容が近所でうわさになっていたことを知り、不審に思ったため、当社を頼ってきたのです。
依頼者はマンションに住んでおり、部屋の中に専門知識がなくても使用できる盗聴器が仕掛けられていました。
しかし、盗聴行為を直接取り締まる法律はなく、盗聴器を仕掛けるために犯した罪、例えば住居侵入罪などに当てはめて相手を訴えるしかありません。
誰が何の目的のために仕掛けたのかを明らかにするための証拠はありません。しかし、依頼人は隣人の仕業だと確信していました。
賃貸住宅の場合、前の住人や、その住人の関係者などが仕掛けていった盗聴器が残っているケースもあり、一概に近隣トラブルには結び付けられませんが、近隣の住民を疑うケースは多いのです。

日ごろのあいさつが大切

 このようにさまざまな近隣トラブルがありますが、実は、直接気分を害する行為を意図して実行する人は少数派です。確かに、非常識な人はいますが、それを非難する人も、きちんとあいさつができていないなど、他人から指摘されて、初めて気が付くのです。
むしろ、ボタンの掛け違い程度の誤解が、修復されずにそのまま放置されると、さらに波紋が広がり、ある出来事がきっかけで、関係がますます悪化していくというパターンが大多数なのです。
これらのことからも、「おはようございます」「こんにちは」など、日常的に交わすあいさつがいかに大切なのかが分かります。
アドバイスとしては、「こちらから、あいさつをしないと相手があいさつしてこない」などと不満を鬱積させる人がいることも想定し、隣人に対して気を使っていることを見せておいたほうが良いと思います。
そして、もし近隣トラブルに巻き込まれた場合は、たとえ相手に明らかに非があったとしても、事態を客観的に見つめ、友人や信頼できる人に相談してください。その際、「あなたならどうするか」と、第三者の意見を聞いて判断を仰ぐくらいの冷静さと謙虚さが必要です。

ある日から突然無視

 今回は、このような近隣トラブルの事例を一つ紹介します。
調査の依頼者は公務員木田健太さん( 49 )=仮名=。7年前に石川県内の新興住宅地に引っ越してきて、専業主婦の妻麗子さん(42)=仮名=、中学生の一人息子と3人で幸せに暮らしていました。
ところが、ある日から突然、隣の家の世帯主である久保一茂さん(48)=仮名=に無視されるようになったのです。
「どうも様子がおかしい」
そう思いながらも、木田さんは極力、気にしないように努めてきたのですが、事態の改善が見られないまま、半年が過ぎました。
久保さんは妻、子供2人と4人暮らしで、木田さんが引っ越してきた当初は、ごく普通の近所付き合いをしていました。しかし久保さんに無視されていることに気づいてから、木田さんも相手を無視するようになり、隣人同士の関係は険悪になりました。
それでも木田さんは、自分からわざわざ修復するよう働きかけるつもりはありませんでした。

ポストに誹謗中傷の手紙

 それから半年ほどたったある日、木田さん方に1通の手紙が投函されていました。内容は「お前のような人間のクズがいるから、世の中が良くならないんだ」という木田さんに対する誹謗中傷でした。
その後も何度か、木田さんを中傷する内容の手紙がポストに入れられ、精神的に打ちのめされた木田さんは、悩んだ揚げ句、当社に駆け込んできたのです。
木田さんの依頼内容は、自宅に隠しカメラを設置し、ポストに手紙を入れる人物を撮影してほしいというものでした。
木田さんは隣人である久保さんの仕業であると確信していたようで、張り込みと同時に久保さんの素行調査も依頼してきました。「交友関係に暴力団などの反社会的勢力が含まれていると厄介だから」と、木田さんは理由を話しました。

離婚話を持ち掛ける妻

 しかし、事態はそこから思わぬ方向に転がっていきました。
調査を開始して1週間ほどたったころ、木田さんは妻からいきなり離婚話を持ちかけられたのです。理由を聞いても、妻は「子供と2人で生きていきたい」と答えるだけでした。
納得がいかない木田さんは、隣人に関する調査を、妻の浮気調査に切り替えたいと言い出しました。幸い、隣人の調査は妻に内緒にしており、私はこの変更を受け入れ、後悔のないよう誠心誠意、調査に打ち込んだのです。
ある日の午後、木田さんの妻を尾行していると、妻は自宅からずいぶん離れた公園の駐車場の片隅に車を止めました。明らかに誰かと待ち合わせをしているようでした。
ほどなくして、そこに現れた男性を見て、私はショックを受けました。なんと隣人の久保一茂さんだったのです。2人は久保さんの車内でしばらく過ごし、近郊のラブホテルに入っていきました。
誹謗中傷の手紙の件もあり、その後、隣人同士がもめにもめたのは言うまでもありません。
しかし、妻の不倫相手が、よりによって、なぜ隣に住む久保さんなのか。その疑問への答えを聞いて、私はあぜんとしました。木田さんの妻と久保さんは、かつて交際していた間柄だったのです。再開して昔を懐かしんでいるうちに、焼けぼっくいに火がついたようです。
事実は小説よりも奇なり。このことを実感した次第です。

(登場人物は調査結果を素材にした創作です)

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